
このサイトの全ての文章の無断転載を禁じます!!「足太いね」
人間関係をプラス思考で
保護者参観会「道徳」の時間
”新感覚の授業!”と大好評
著者 山中雅史
2000年 10月 4日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載
新しい授業を試みた。
人との付き合い方や人間関係を学ぶ「道徳」の授業である。しかも,6年生の保護者参観会で。
*
「先生は,先日,電車に乗りました。そうしたら3人の女子高校生が乗り込んで来て,それはもう楽しそうにお喋りをしていました。その中の一人が,別の子に向かって,突然こう言ったのです。」
私は,黒板にゆっくりと次のように書いた。
『足太いね!』 子供たち,騒然。そこで課題。
「さて,自分がこう言われたら,何と応えますか?」
子どもたちは戸惑いの表情を浮かべながらもノートに向かう。ノートに書けた子から,黒板に書かせた。
以下は,十二歳の子供の
対応ぶりだ。
A まあね
B あなたの方が太いわ
C あなたよりましだわ
D うるせえ,ばあか
E うん,太いわ。あなたは細いのね
F これ,筋肉なの
G いいでしょう
この七つについて全体で話し合わせた。子供たちは一体どれを評価したのだろうか。まず,Dが槍玉にあがった。
「これではちゃんと言い返していない。 逃げている。本当の解決にならない。」
というのである。期せずして拍手が起こる。これに対し,
「相手もかなりひどいことを言っているのだから,このくらいで丁度いいのだ。」
と反論がある。平行線のままだ。他の考えについても子供たちのコメントを紹介しよう。
A あっさり,受け入れちゃった…
BとC ちゃんと言い返しているけどこの後の人間関係が心配。
E 結構逆襲してるね。
F 笑いで受ければ相手も笑っていい雰囲気となる。
G 自分の足を自慢していてすごい!
*
さて,本当のところはどうだったのだろうか。子供たちは早く知りたがっている。そして,保護者も。
「その女子高校生,実は,こう言ったのです。」
と言って私は,おもむろに黒板に向かった。
『うん,太くて可愛いでしょう。』
子供たち,ドッと笑う。
「これで,他の二人の女子高校生も大笑い。言ってる本人も大笑い。もちろん山中先生も大笑い。これを聞いていた電車の乗客みんな笑っちゃったんだ。」
保護者もかなり受けている。
「なんて愉快な言い方でしょう。先生は,すっかり感心してしまいました。」
この明るい雰囲気の中,私は,次のように価値づけてみた。
「この言い方には,いくつかの原則が隠されています。@相手の言うことを受け入れているA自分にとって,
いいことと考えているB明るくユーモアで返しているーということです。かっこよく言うと『プラス思考』です」 この後は,応用編。「のっぽだね」「チビだね」と言われたらどう応えるかを考えて参観会を終えたのだった。
*
「新感覚の授業!」「とっても役に立った」ー子供が評してくれた言葉だ。一方,複雑な乙女心をもつ女の子の感想はー。
『ハッキリ言って,足が太いという話題にはふれてほしくなかった。私も時々言われるから。その時に返す言葉が無くて何も言えずじまいだから。言った方は何も感じないけど,そういう何気ない一言って時々すごく重く心に残ることがあるよ。そういうの保育園の時の事でも覚えているし。でも,それをしっかり笑いに変えて返すことのできる人ってすごいと思う。「すごい」なんて安い言葉だけど,今の私の気持ちをぴったり表せる言葉を私は知らない。あんな風に返して,いろいろな人を笑い顔にできる人になりたい。強くなりたい。先生,ありがとう。』
ああ,やってよかった…
(山中雅史・仮名)